点と線
時刻表物の先駆にして最高傑作のひとつとされる本作はさすがの一言。
トリックに焦点が当てられがちだが、夫の愛人を公認しつつも嫉妬を覚える病弱の妻や、その愛人を商売のために殺害する夫など、人の暗部の描写が実は恐ろしい。しかもそれらは当事者によって語られたり、心情を直接描写される訳ではなく、あくまでも刑事からの目線で述べられるので、その嫌悪感が増幅して伝わる。そして、松本清張のテーマである「政治家や官僚組織の狡猾さ」ももちろんそこに加わる。
ただ今読むと、刑事の直感に基づいて行われる粘り強い捜査にもそこはかとない気持ち悪さを感じる。一度決めたストーリーに沿って証拠品の捏造・無視や証言の強要をする昨今の検察や警察の不祥事を思い起こさせることも確かである。本作が彼らのバイブルのひとつになっているのかもなどと思いつつ・・・。
以下箇条書き。
- 福岡県警の刑事と警視庁の刑事の往復書簡の挟まる構成は素晴らしい。
- 社長自ら奥さんも伴って殺人とはリスクが高過ぎる。
- 昭和の風俗に触れられるのがまた良い。