SASAKA's Memo

消費したものや感じた事のメモです。

鹿の王

本屋大賞を受賞したことを受けてKindle版を購入。

 

上橋菜穂子氏の著作は初めてだったので、その重厚な世界観には率直に驚いた。特に科学的考証と独自の世界観の融合のバランスが絶妙で、過去に実際にこのような国があったのではないかと感じられるほどだ。あとがきにて本作のイメージになった二冊の生命科学系の書籍が具体的に紹介されているが、現代の創薬にも通じる普遍的な医学的探求の概念も至極的を得ており、医学を気軽に知るためにも有用な本かも知れない。(漢字を用いる顔の平たい族による)大国である東乎瑠帝国(中国?日本?)の医術は宗教と一体化した儀式的な側面が高いものであるという設定も面白い。

 

自身の行為が医師としての使命によるものなのか、個人的な好奇心によるものなのか煩悶するホッサル。大勢の命を救うために、少人数を犠牲にしても良いのかなどと言った創作物の定番のテーマが織り込まれる。特に群れのために踊るような仕草で天敵を引き付ける「鹿の王」は、自己犠牲などと言った尊いものではなく、アポトーシスを起こす細胞のように、単に役割を与えられただけという発想は面白い。そして読者は、長い旅の中で別の役割を与えられたヴァンが「鹿の王」とならないことを願いつつ本を閉じるのだろう。

 

難点は独自に創作した耳慣れない言葉や名前が頻発しており、しばしば内容理解に支障がきたす部分は確かにある。個人的には海外推理モノなんかと比べるとその頻度は少なかったように思えるが、全く苦痛を感じることなく読めるのはファンタジー小説に慣れ親しんでいて、物語の視覚化が得意な層だけではないだろうか。アニメ化が期待されるが、今わたしの中にいる貞本義行風ヴァン像が消されてしまうのはまた悲し。

 

守る人シリーズも読んでみよう。

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
 

 

鹿の王(上下合本版)

鹿の王(上下合本版)